仁科センターの紹介
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ごあいさつ

櫻井博儀センター長の写真

人類は、自らの好奇心を満たすため、素朴な問いに答えるために科学技術を発展させてきました。仁科加速器科学研究センター(仁科センター)は、約80年以上前に仁科芳雄博士が創始した「元素変換」に関連した科学と技術開発を推進し、二つの問い「元素は宇宙でどうつくられたのか?」、「人類は元素を自在に変換できるのか?」に挑戦しています。これらの研究成果を社会に還元して、人類社会の抱える環境・エネルギー・資源の問題を解決することを目指しています。

地上には元素が満ち溢れ、その元素は宇宙でつくられました。鉄からウランにいたる重い元素は、重い星の最期の超新星爆発もしくは中性子星合体で生成されたと考えられています。元素がつくられる過程は、原子の中心にある原子核の陽子数、中性子数が変化していく過程に他なりません。しかし、どこでどのようにその元素合成過程が進んだのか、その詳細は全くわかっていません。仁科センターは、宇宙で一瞬だけ存在した短寿命の中性子過剰な放射性同位元素(RI)を大量に人工生成し、その性質を研究するための施設「RIビームファクトリー(RIBF)」を建設しました。2007年の本格稼働以来、RIBFは世界に冠絶する性能を誇り、世界の研究者を魅了する数々の研究成果を生み出しています。

仁科センターは、高レベル放射性廃棄物中に含まれる長寿命放射性同位元素を安定元素、短寿命元素に変換するための基礎科学と技術開発にも取り組んでいます。RIBFを利用して効率よく変換データを取得し、新たな次世代加速器の検討を始めました。RIBFの重イオンビームは、放射性医薬品製造、育種、半導体試験などにも利用され、医療・農業・IT分野でも活用されています。

RIBFを支えるテクノロジーは、加速器技術と同位体分離技術です。ウランまでの重イオンビームを世界最強の強度で加速する超伝導サイクロトロンとで生成したRIを収集分離する超伝導RIビーム生成分離装置を擁しています。仁科センターで合成に成功した新元素「ニホニウム」もRIの一つで、RIBFの最上流にある線形加速器と分離装置を利用して合成に成功しました。線形加速器と分離装置は2020年初頭に高度化が完了し、新たな装置を利用して、119番元素以降の新元素生成を目指しています。

仁科センターはRIBFを高度化し、未知の放射性同位元素を生成する能力を飛躍的に高めることを計画しています。このRIBFの高度化によって、宇宙での元素合成研究と原子核合成・変換法の研究をさらに推し進め、我が国の元素変換の科学と技術の先導性、卓越性を維持発展させることを目指しています。

2020年4月1日
仁科加速器科学研究センター長 櫻井 博儀