多様性、公平性、包摂性に関する宣言
すべての人は、公平に扱われるべきです。これは、人間の基本的かつ不可侵の権利であり、「自分がしてほしいように他人に接する」という、いわゆる「倫理・道徳の黄金律」とも通じるものです。この原則を実現するためには、互いの尊重、偏見の認識と是正、そして公平さを積極的に支持する姿勢、とりわけ公平性が損なわれている状況において、それを積極的に是正しようとする姿勢が求められます。
私たちは、公平性を育むことで、多様性に富み、互いを尊重し合える職場環境の実現を目指します。こうした環境づくりは、直接の当事者にとっての福祉をもたらすだけでなく、組織全体の成果の質や生産性の向上にもつながります[1–3]。
この原則は、理化学研究所 仁科加速器科学研究センター(RNC)のような科学研究機関においても、当然ながら当てはまります。RNCの起源は、1930年代に仁科芳雄博士が理研に創設した仁科研究室にさかのぼります。日本の近代物理学の先駆者であった仁科博士は、当時まだ「多様性、公平性、包摂性(英語の頭文字をとってDEIと呼ばれます)」という概念が成立していなかった時代にあっても、公平性の重要性を深く理解していました。
博士は、デンマーク・コペンハーゲンのニールス・ボーア研究所に在籍していた際、年齢や経験、地位にかかわらず、誰もが自由に科学的議論に参加できる開かれた職場環境を体験しました。このような包括的な環境が、当時の最先端研究を次々と生み出す原動力であることを実感した博士は、その精神を「コペンハーゲン精神」として日本にも根付かせたいと考えるようになったのです。博士の有名な言葉に「環境は人を創り、人は環境を創る」があります。これは、科学者もひとりの人間であり、その人間を取り巻く健全な環境が、科学研究において極めて重要であるという博士の認識を表しています。
私たちは、この人間への深い洞察と、異なる立場や考え方への開かれた姿勢を受け継ぎ、それを現代的に発展させ、より透明性と包摂性に富んだ組織を目指します。そのために、RNCは以下の指針に基づき、研究および職場環境の改善に取り組んでいきます。
多様性
- 私たちは、国籍、民族、性別、性的指向、宗教、障害、職種(研究職および事務職)、職位、学歴、その他の属性の違いに関わらず、RNCで働くすべての人が互いを尊重し、臆することなくコミュニケーションを取ることができる環境づくりを目指します。
- 同僚や外部の関係者とのやり取り、さらには採用プロセスを含む日々の業務や研究環境において、こうした違いに基づく差別を排除することを目指します。
公平性と透明性
- 私たちは、前述のような属性の違いや個人的・家庭的事情により困難に直面しているメンバーを支援し、擁護することを目指します。
- 当センターにおける重要な方針決定、採用プロセス、日々の研究活動を含むすべての業務において、透明性を維持することを目指します。
- 当センターおよびその運営に関する意見については、外部の研究者や専門家からの意見も含め、開かれた姿勢で臨むことを約束します。
包摂性
- 私たちは、差別と闘い、すべての人が尊重され、その価値を認められるような環境を構築し、それによって信頼関係を育み、誰もが自信をもって最大限に力を発揮できるようにすることを目指します。
- 多様で包摂的な環境の推進は、科学研究の高度な水準を維持するうえでも重要であり、科学の発展に不可欠な新しい視点やイノベーションを生み出す環境につながることを認識します。
- 当センターの職員に対して、潜在的な差別に対する感度を高め、「無意識の偏見」存在を啓蒙し、センター内での敬意ある相互交流を促進するための研修を実施します。
- さらに、若い世代や一般の方々へのアウトリーチ活動を通じて、将来的により包摂性の高い環境を構築することを目指します。
人口統計データ:職種別の国際化率および女性比率
本宣言の一環として、RNCの現状を示す人口統計データを公表します。2025年4月1日現在、RNCには、スタッフ、学生、客員研究員などを含め計807名の職員が在籍しており、各自が誇りと責任をもって業務に取り組んでいます。
職種 | 合計 | 国際比率 | 女性比率 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
研究職 | 研究室主催者 (PI) | 28 | 0 | 0.0% | 4 | 14.3% |
研究職員 | 73 | 6 | 8.2% | 6 | 8.2% | |
ポスドク研究員 | 23 | 8 | 34.8% | 2 | 8.7% | |
テクニカルスタッフ、 リサーチ・アドミニストレータ等 | 8 | 0 | 0.0% | 4 | 50.0% | |
学生 (学部生・大学院生等) | 200 | 46 | 23.0% | 39 | 19.5% | |
アシスタント | 11 | 0 | 0.0% | 11 | 100% | |
非常勤職員 (研究系・事務系) | 34 | 0 | 0.0% | 14 | 41.2% | |
客員 (研究系) | 413 | 114 | 27.6% | 51 | 12.3% | |
海外拠点所属 / 海外委託 | 17 | 13 | 76.5% | 2 | 11.8% |
注:2025年4月1日現在の職員数(RNCでの専任および兼任を含む)
参考文献
[1] Kaoru Tamada, Eriko Jotaki, Naoko Tsukamoto, Shoko Sagara, Junko N. Kondo, Masao Mori, Miwako
Waga and Sandra Brown, Evaluation of the Gender-Neutral Academic Climate on Campus for Women
Faculty in STEM Fields, International Journal of Educational Research Open (IJEDRO), Elsevier
DOI:10.1016/j.ijedro.2024.100390
Press release document in Japanese: https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/1164
[2] Suzanne T. Bell, Anton J. Villado, Marc A. Lukasik, Larisa Belau, and Andrea L. Briggs, Getting Specific about Demographic Diversity Variable and Team Performance Relationships: A Meta-Analysis, Journal of Management Vol. 37 No. 3, May 2011 709-743, DOI: 10.1177/0149206310365001.
[3] Reports by McKinsey & Company, Why Diversity Matters (2015), Delivering Through Diversity
(2018), Diversity Wins (2020), Diversity matters even more: The case for holistic impact (2023).
https://www.mckinsey.com/featured-insights/diversity-and-inclusion/diversity-matters-even-more-thecase-
for-holistic-impact