理化学研究所 仁科加速器科学研究センター
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地上には存在しない同位体の構造を研究したい

RI物理研究室 ピーター・ドルネンバルさんに聞きました

ピーター・ドルネンバルさんって何をしてるの?

ドルネンバルさんが所属するRI物理研究室では、原子核の形や構造の起源などを詳しく研究しています。ウランまでのすべての元素のRI(不安定核)を発生させることができる世界最強の加速器、RIビームファクトリーを用いると、宇宙でしか発生しないようなRI(不安定核)をつくることができます。この大規模な研究施設での実験のセットアップには大変な労力が必要だそうです。ドルネンバルさんはインビームγ線核分光という技術を使ってγ線を分析します。

ピーター・ドルネンバルさん
ピーター・ドルネンバルさんの略歴

ドイツ・フランクフルト大学の学生のとき、近隣のダルムシュタットにある世界的な重イオン研究所(GSI)を知り、原子核研究を志す。2004年、物理学修士号(フランクフルト大学)。2007年、物理学博士号(ケルン大学)を取得後、来日して理研で研究を始める。チームスポーツが好きで、日本では浦和レッズ、広島東洋カープ、海外ではFCバイエルン・ミュンヘンやグリーンベイ・パッカーズのファン。自身もバスケットボールやウエイトトレーニングなどのスポーツ好き。

質問1好きな元素はなんですか?

ドルネンバル:私の研究で一番好きな元素はカルシウムです。カルシウムは20個の陽子をもち、さまざまな同位体が存在するからです。原子核構造が安定する陽子数または中性子数を「魔法数」といい、2、8、20、28、50、82、126などが知られています。カルシウムは陽子の数において魔法数であり、中性子数においては20と28、つまりカルシウム-40(40Ca)とカルシウム-48(48Ca)の同位体が魔法数をもち、安定です。私たちはRIビームファクトリーを使った魔法数の研究で、世界をリードしてきました。カルシウム-54(54Ca)が魔法数であるかどうかは、長い間議論されてきましたが、私たちは54Caのγ線核分光に初めて成功し、中性子数34が魔法数であることを明らかにしました。他にも36Ca、52Ca が魔法数16、32をもつことが知られています。現在、私は中性子数40もカルシウム同位体の新しい魔法数になることを期待して研究に取り組んでいます。この研究のためにγ線核分光の装置を開発しています。加速器からのRI(不安定核)ビームを標的にあてて、そのときに四方八方に出るγ線のエネルギーを分析します。

ピーターさんが開発中のγ線核分光装置

ピーターさんが開発中のγ線核分光装置

γ線核分光装置の部品。白い円柱と右側のメダルのようなものはどちらも標的で、それぞれプラスチックと金でできている。後ろはγ線エネルギーを電気信号に変換して増幅・検出する装置。

γ線核分光装置の部品。白い円柱と右側のメダルのようなものはどちらも標的で、それぞれプラスチックと金でできている。後ろはγ線エネルギーを電気信号に変換して増幅・検出する装置。

質問2仁科センターではSDGsに関連する研究成果はありますか?

ドルネンバル:持続可能な開発目標の一つに「飢餓をゼロにする」というものがあります。食品の安全性を高めるために原子力の技術が役立ちます。例えば、電離放射線を食品に照射すると、潜在的に有害な微生物を殺すことができます。また、作物の品種改良にも利用され、気候変動や地域の事情に適応した新種を作ることができます。さらに、核医学の分野でも、SPECT(単一光子放射断層撮影)やPET(陽電子放出断層撮影)検査など、幅広い分野で利用されています。

質問3もし元素を発見したらどんな名前をつけたいですか?

ドルネンバル:現在世界中でいくつものチームが新元素の発見を競っています。私は新元素合成の研究グループではありませんが、ある程度の予想はしています。日本の他のチームと共同研究を行った場合は、私たちの研究所の名前であり、日本の近代物理学研究の創始者である仁科芳雄にちなんで、「ニシニウム」と名づけるのは自然なことでしょう。また、私の故郷であるドイツのチームとの共同研究で発見した場合は、量子力学の確立に貢献したヴェルナー・ハイゼンベルクや、魔法数の研究でノーベル賞を受賞したマリア・ゲッパート・マイヤーにちなんだ名前がつくと思いますね。3人とも私にとって大切な人たちです。

(2022年4月取材)

京都大学工学部3年 飯田耀介
大阪府立住吉高等学校
3年
飯田 耀介

インタビューを終えて

研究所の方々は厳格な人が多いのだろうという僕のイメージとは違い、ピーターさんは、とても優しい人でした。わからないことがあっても、わかるまで教えてくれて、僕はプライベートな質問などもたくさんしました。「新しい発見や実験の結果がどうなるかを考えるのはとても楽しい」と言っていたのを聞いて、科学が楽しくて、それを仕事にしていていいなと思いました。

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