理化学研究所 仁科加速器科学研究センター
見たい!知りたい! 原子核サイエンス最前線 仁科加速器科学研究センター応援団
高校生・大学生サイエンスコミュニケーター
が取材しました!

普通に存在しない元素を扱えるのが魅力!

最先端RI研究に挑む二人は、
学生時代の先輩と後輩

RI応用研究開発室 重河優大さんと南部明弘さんに聞きました

RI応用研究開発室って何をしてるの?

RI応用研究開発室は、仁科センターでは珍しい化学系であり、放射化学の研究を行っています。放射性同位体(RI)を製造し、それを化学分離して未知の性質を調べたり、医学をはじめとするさまざまな分野へ応用したり、他の研究機関へ提供したりしています。RIの中でも超重元素は特に半減期が短く、一度に1原子のみしか扱えません。そこで、製造した超重元素は、加速器の真上にある実験室になんと約1秒で運ばれ、迅速に化学操作が行われます。こうして、その挙動を見ようとしているのです。

重河優大さん
重河優大さんの略歴

2019年大阪大学大学院理学研究科化学専攻博士課程修了。博士(理学)。仁科センター基礎科学特別研究員を経て、2022年より仁科センター特別研究員。趣味は漫画を読むこと。

南部明弘さん
南部明弘さんの略歴

2018年大阪大学大学院理学研究科化学専攻修士課程修了。修士(理学)。狭山ヶ丘高等学校教諭を経て、2020年より仁科センターテクニカルスタッフI。趣味は、小腹がすいたときのプリンづくり。

「南部さんが理研に来たときには驚いた!」と話す重河さんにとって、南部さんは大学の同じ研究室の後輩です。一緒にRIを研究する二人は、息がぴったりです。

質問1お二人の好きな元素や、放射化学の研究を始めたきっかけは何ですか?

重河:愛着があるのは、これまで研究で使ってきたトリウム(Th)、ウラン(U)、プルトニウム(Pu)などの核燃料としても知られる元素ですね。様々な同位体があり、大学では ウラン-235(235U)の研究をしていました。

南部:私も最近実験でよく使っているのが Th なので、愛着がありますね。Th から、薬の原料として利用できるアクチニウム-225(225Ac)をつくろうとしています。

重河:物理的な測定と化学的な分離をミックスして物事を解明していく感じや、ふだんは扱えない放射性物質を含めて周期表にあるすべての元素を扱える、そんな異質な感じが放射化学の魅力ですね。マリー・キュリーは、数トンもの鉱物から放射性物質を分離しましたが、私たちも、技術の違いはあるものの、彼女と同じようなことをしているのかもしれませんね!

南部:普通の化学とは違った特別感がありますね。放射化学の分野はそのようなモチベーションをもっている人が多いです。

重河:危険な放射性物質を使用するため、管理区域内で実験しなければなりません。普通の実験室では扱えないので、大学では放射化学がメインの研究室はかなり少なく、若い人にあまり知られていません。

重河、南部:なので、たくさんの人に興味をもってほしいです。

ゲルマニウム(Ge)検出器。物質中に存在する放射性物質を検出できる。

ゲルマニウム(Ge)検出器。
物質中に存在する放射性物質を検出できる。

質問2愛読書は何ですか?

重河:科学書は結構読んでいて、『量子革命』が特に好きです。量子力学がどのように発展したか、“科学が生まれる瞬間”がドラマになっています。私も新しい科学の誕生に立ち会えたらと思っています。

南部:中高時代は、ブルーバックスシリーズをよく読んでいました。特に『相対性理論の世界』が好きです。大学は化学科でしたが、もともと物理にも興味があったので、物理学科の講義もよく聴講していました。

ウランを含む鉱物。ブラックライトをあてると光る。

ウランを含む鉱物。ブラックライトをあてると光る。

質問3南部さんは 2年間高校の教員をしていたとのことですが…。

南部:親が教員だったこともあり、現実的に就職について考えたときに、とりあえず教員免許は取っておくことにしました。教員は人のために仕事をしている部分が大きい一方、研究者は自分の好奇心が原動力になっているところがかなり違いますね。もちろん研究者も世のため、人のため、という点がモチベーションにもなっていますが…。教員として化学をおもに教えていたのですが、教科書に載っていることをすべて教えないといけないため、いろいろな分野の知識がまんべんなく身につきます。研究で新しいことをしようと思って、自分の知識を組み合わせたり引っ張り出したりする際に、これらの知識が役に立ちます。

重河:意外と高校の知識が役に立ちますね。

南部:教科書は大事です。

重河:習ったことでも、実際に現場で考えるクセをつけないとなかなか応用できないですね。だから実験で困ったときには、「何が起こっているのか」を、その都度二人で話し合っています。

超重元素が合成されてから化学分離までの流れ。

超重元素が合成されてから化学分離までの流れ。

質問4研究の息抜きに何をしていますか?

重河:無難ですが、お菓子とコーヒーですね。デスクワークは特に息抜きが欠かせません。

南部:二人でディスカッションや関係ない話をしたり、ニュースを見たりしています。また、理研内に池や桜並木があり、移動する際に自転車でよく通っています。理研の中でも好きなスポットですね。ときどき鴨も見られます。

重河:コロナ禍以前は花見をしている人がたくさんいましたね。気分転換に散歩しています。人はあまり歩いていませんが、理研は自然が多く、大学のキャンパスに雰囲気が近いです。

(2022年4月取材)

京都大学工学部3年 徳富 芽衣
京都大学工学部3年徳富 芽衣

インタビューを終えて

お二人とも親切な方で、インタビューからも、お二人の仲のよさ、絆を感じました。なかなか入ることのできない施設の見学もとても楽しかったです。これまでは放射化学と聞いても、イメージや研究の様子があまりピンと来なかったですが、発見されているすべての元素が研究対象であり、物理と化学の両方の考え方を必要とする放射化学という分野が非常に魅力的に感じました。重河さん、南部さん、貴重なお時間をいただきましてありがとうございました。

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