理化学研究所 仁科加速器科学研究センター
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レーザーで原子核の何が見えるか

核分光研究室 高峰愛子さんに聞きました

高峰愛子さんって何をしてるの?

核分光研究室に所属する高峰さんは、RIビームファクトリー(RIBF)でつくられたRI(不安定核)を、「SLOWRI」という自作の装置で減速し、そのRI(不安定核)の質量と寿命を精密に測定する研究をしています。RI(不安定核)とは、わずかな時間で中性子や陽子の数が変化してしまうという意味で“不安定”な原子核です。RI(不安定核)の質量や寿命を明らかにすることは、RI(不安定核)を経由して行われたとされる元素合成の過程の解明につながると期待されています。

高峰愛子さん
高峰愛子さんの略歴

2007年東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系博士課程修了。博士(学術)。青山学院大学を経て、2015年から仁科センターに。趣味はヘヴィメタル、合気道、iPadでお絵描きなど幅広い。

質問1高峰さんの研究について教えてください。

高峰:原子核の中には、安定で自然界にたくさん存在するもののほかに、寿命が短くてRIBFで人工的につくらないと得られない「RI(不安定核)」があります。このRI(不安定核)を調べることは、この世界の原子がどうやってできたのかを解明するためにとても重要です。しかし、RIBFでつくられる原子核は光の速度の70%の速さをもっていて、調べるのは大変です。私は、このRI(不安定核)のビームを減速させて、イオントラップという方法で捕まえて調べられるようにする装置をつくりました。その装置を用いて、RI(不安定核)の質量を精密に測定しています。ゆくゆくは、トラップしたRI(不安定核)にレーザー光をあてて、出てくる光を観測するというレーザー核分光の手法で、原子核の形や大きさを調べたいと思っています。

RI(不安定核)をトラップする「SLOWRI」と、トラップした核の質量を測定する装置。

RI(不安定核)をトラップする「SLOWRI」と、トラップした核の質量を測定する装置。

高峰さんがつくった装置「SLOWRI」

高峰さんがつくった装置「SLOWRI」。図の左側から入射する高速のRI(不安定核)をRFGCとラベルしてある箱の中で減速させ、箱の上部中央の穴から上に放出させる。そして、図の右上にある金色の筒(MRTOF)で質量の測定を行う。

質問2レーザーを使って原子核の様子を調べることができるのですか?

高峰:はい!これは自慢になりますが、理研の加速器でつくるようなRI(不安定核)をイオントラップしてレーザー核分光で調べるなんて研究をしているチームはうち以外に世界のどこにもありません。誰でもやっているような研究をしたってつまらないですしね。あと、レーザー分光はほんとうに楽しいんですよね。私は一日中レーザーをいじっていられます。

質問3レーザーがほんとうに大好きなのですね。どんなところに魅力を感じていますか?

高峰:レーザーでは物理量を最も精密に測定できるんですよ。あと、原子核理論によらずに測定値を得られる、つまり、スピンや核の広がりなどの物理量を調べたいときに、出てきた光の波長を見れば、求めたい物理量が一目瞭然である、というのも大きいですね。測定できるものと知りたい値の関係がはっきりしているので、不完全な理論を介さずに確かな値が得られます。理論の検証方法としてはとても強いです。理論家の研究者にも「早くこれ測ってよ」とよく言われます。それから、昔、イオントラップしたRI(不安定核)にレーザーをあてるという研究もしていました。その研究で、レーザーの発光からRI(不安定核)を捕まえたことを目で見て確認したときの感動は今でも忘れられません。うれしすぎて、大声で「あーっ!!!!」って叫んで、その叫び声があまりに大きかったのでレーザーロックが外れてしまいました。特に実験に支障はなかったのですが、怒られちゃいました。

質問4(高峰さんの作業机の前で)“ザ・作業場”って感じがします。

高峰:ちょっと散らかっていてごめんなさいね。装置を開発している間は、日々ここで試作機を準備していろいろつくっています。いつも何か失敗するんですよね。ヘリウムの圧力を上げすぎて、(床の上の金属の箱を指しながら)この箱の蓋を吹っ飛ばしてしまったこともあります。(机の上に置いてある部品を手にとって見せながら)このポールトラップの部品も失敗したものなんだけど。たいてい何か失敗するから、うまくいくまでつくり直して。それが装置開発です。

作業机の脇に転がっていた試作部品。

作業机の脇に転がっていた試作部品。

質問5装置で測定するだけではなく、装置をつくるところもゼロからするのですか?

高峰:そうですね。装置もゼロからつくるし、解析のプログラムも書くし、プレゼンもするし、予算も取ります。実は、一口に研究って言っても、分野によっては、大きなプロジェクトを何人もで分業して、一人がやるのは全体の研究の一部だけになってしまうところもあると聞きます。でも、原子核物理の分野は、もちろんチームプレイが基本なのですが、結構一人がいろいろな役目を担うんですよね。ほんとうにいろいろな知識がいるから、「もう勉強するしかない」と。否応なしに成長できます。それに、自分でプロジェクトをリードできるので、やりたいことができるんですよね。そういうところが楽しいと思うし、私にちょうどよくて、合ってるなぁと思います。

質問6大学に入ってから勉強し始めた量子論がまだよくわかりません。高峰さんが量子論をわかるようになったのはいつですか?どうすればわかるようになりますか?

高峰:私もまだわからないことだらけです。とりあえず、慣れて計算できるようになってください。でも、計算できるようになっても、理解できるようになるわけではないし、世の中の誰も完全には理解できてないです。私は、量子論の理解を少しでも深めてから死ぬのが人生の目標です。

(2022年4月取材)

東京大学教養学部前期教養課程理科一類2年 田中陽帆
東京大学教養学部
前期教養課程理科一類
2年
田中 陽帆

インタビューを終えて

毛先にグリーンを入れた長髪をなびかせ、ワインレッドのシャツの上から黒いジャケットを羽織ってさっそうと現れた高峰さんは、張りのあるよく通る声が印象的で、舞台女優のようなオーラをまとっていました。意外だったのは、「量子論がまだよくわからない」とあっけらかんとおっしゃっていたことです。きちんと理解しないと研究なんてとてもできないと思っていたので、肩の力が抜けました。

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