理化学研究所 仁科加速器科学研究センター
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が取材しました!

原子核の質量を求め、宇宙の起源を解き明かす

スピン・アイソスピン研究室 サラ・ナイミさんに聞きました

サラ・ナイミさんって何をしてるの?

スピン・アイソスピン研究室のナイミさんらは、理研にしかない稀少RIリングという装置を用いて非常に短時間で他の元素に変わってしまうRI(不安定核)の質量を精密に求める研究をしています。最近、新たに確立した方法を使うことで、不安定な同位体であるパラジウム-123(123Pd:原子番号46、中性子数77)の質量を、その寿命よりも短い時間で精密に測定することに成功しました。こうした研究により、鉄より重い元素がどのようにできたかを説明するための仮説の一つ(速い中性子を捕獲するr過程)への理解を深めることが、研究室の大きな目標です。

サラ・ナイミさん
サラ・ナイミさんの略歴

フランスで生まれ、フランス、アルジェリアで育つ。2010年パリ・サクレー大学博士課程修了。博士(物理)。理研、マックスプランク研究所(ドイツ)を経て2014年から仁科センターに。趣味は研究。子供の頃から星空を眺めるのが好き。

質問1現在行っている研究の内容を教えてください。

ナイミ:加速器を用いて人工的につくったRI(不安定核)が安定な他の原子核に変化してしまう前に、RI(不安定核)の質量を稀少RIリングを用いて測定しています。原子核は陽子と中性子で構成されていますが、原子核の質量は、束縛エネルギーというものがあるため、陽子の質量と中性子の質量の和よりも少し軽いのです。r過程を理解するための計算をするには、実験で精密な質量を求めなければなりません。私たちは、超伝導リングサイクロトロンで光速の70%まで加速したウランの原子核をベリリウム標的に衝突させ、生成した123Pdを稀少RIリングに入射し、100万分の1以下の精度でその質量を測定しました。粒子の速さは質量に依存するので粒子が約2000周する時間を計測し、その時間から質量を計算します。測定にかかる時間はわずか0.0007秒です。ちなみに、このとき、質量を測定できた123Pdは5日間でたった166個でした。RI(不安定核)の質量計測は新しい科学の分野ではありませんが、原子核物理の領域を広げます。

稀少RIリング。理研で開発した、RI(不安定核)の質量測定に特化した蓄積リング。蓄積リング内で粒子が周回する際の速さはエネルギーによらず、質量のみに依存するという性質を用いて質量を測定する。

稀少RIリング。理研で開発した、RI(不安定核)の質量測定に特化した蓄積リング。蓄積リング内で粒子が周回する際の速さはエネルギーによらず、質量のみに依存するという性質を用いて質量を測定する。

RI(不安定核)の質量を求める実験の概念図

RI(不安定核)の質量を求める実験の概念図。超伝導リングサイクロトロン(左)でウランの原子核を光速の70%まで加速し、ベリリウム標的に衝突させると、さまざまな質量数の同位体がランダムにできる。そこから「粒子の識別・選択」部で大まかに123Pdに近い質量数の同位体を選別する。検出器が研究対象の123Pdを検出すると識別信号伝送経路で「粒子飛行経路を通って123Pdが稀少RIリング(R3、右)に向かったので準備せよ」とキッカーシステムに伝える。123PdがR3に到達した瞬間、キッカーシステムのスイッチが入り、R3内を周回させる方向に123Pdをキックする。こうしてRIリングの中に123Pdのみを周回させ、質量を求めた。

質問2なぜ理化学研究所を研究場所に選んだのですか?

ナイミ:私は今までドイツやスイスなどの加速器施設でも研究を行ってきました。仁科センターにはRI(不安定核)をつくるために必要な加速器があり、ちょうど新しい装置である稀少RIリングの開発後期でもあったため、稀少RIリングを使った研究に携わりたいと思い、理研にきました。

質問3研究者を目指した理由や研究者になってよかったことを教えてください。

ナイミ:私はいつも星に魅了されてきました。空を眺めながら、私たちの起源は宇宙にあり、その宇宙の謎を解明できるのは科学者しかない、そう確信して研究者を目指しました。
研究者になってよかったことは、大好きな実験を仕事としてできることです。私にとって研究は仕事というより趣味のようなものです。複数人と議論したり、地下で作業している時間は至福のときです。

質問4これからどんな研究者になりたいですか?

ナイミ:新しい研究者を育て、次世代につなげていく役割を担っていきたいです。私はもう少しで理研を離れ、フランスに戻ります。仁科センターの加速器施設(RIBF)は、すべて自分の手で実験器具を開発したり動かしたりするため、多くを学ぶことができました。そのため、いつかまた理研にくるときは、自分の生徒と共に訪れ、私が理研で多くを学んだように生徒にもたくさん学んでほしいと思っています。

質問5最後に、研究者を目指している高校生や大学生にアドバイスをお願いします。

ナイミ:研究者として成功したいなら、信念をもって学ぶことが大切です。自分を信じて、やりたいことをどんどん学んでいきましょう。それがサイエンスだと思います。また、実験は99%が失敗という場合もあります。そういったときに研究者に必要なものは、あきらめない一途な心や、失敗をしてもくじけず次へ次へと挑戦する心です。そして、研究は多くの方々と協力して行うため、他人と比べないことも大事です。みなさんには、高校や大学での授業などで、とにかく考えて聞き、的外れでもいいから質問や発言をしてほしいです。
私は学士では微小隕石、修士では中性子星、博士では原子核物理の分野で論文を書き、現在原子核物理を研究しています。学部生の頃から「この分野に進みたい!」と決めている人もいる一方で、私のように、研究していくうちに進みたい分野を決めていく人も多いので、焦る必要はないと思います。今のうちにいろいろな分野に興味をもって学んでいきましょう!Don’t give up!

(2022年4月取材)

東北大学理学部化学科2年 中川鈴彩
東北大学理学部化学科
2年
中川 鈴彩

インタビューを終えて

今回のインタビューを通して、サラさんの研究への愛と情熱を感じました。今まで、私は研究者を志していたものの、進みたい分野が決まっていないことに劣等感・焦燥感を感じていました。サラさんも学部生の頃は明確に決まっていなかったと知り、劣等感・焦燥感を克服できたことが、今回の一番の収穫でした。私もサラさんのような情熱にあふれた研究者になれるよう、あきらめない一途な心をもって勉学に励みたいと思います。

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