理化学研究所 仁科加速器科学研究センター
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が取材しました!

新元素発見のために

~自然には存在しない元素を研究し、物質の謎を解き明かす~

超重元素研究部 ピエール・ブリオネさんに聞きました

ピエール・ブリオネさんって何をしてるの?

ブリオネさんは、超重元素研究部の超重元素分析装置開発チームで特別研究員として新元素の合成に携わっています。現在、元素は118番まで発見されており、ブリオネさんたちは加速器を使って加速したバナジウムをキュリウムにぶつけることで新しい119番目の元素を合成することを試みています。119番目の元素はとても不安定(存在できるのは非常に短時間)であるため、できるだけ生成確率を上げ、確実に検出し、さらに精密な測定をするためにさまざまな工夫をしています。

ピエール・ブリオネさん
ピエール・ブリオネさんの略歴

フランス出身。2017年ストラスブール大学で博士号(原子核物理学)を取得後、2018年に来日。同年より特別研究員として理研に所属。趣味はビデオゲーム、音楽、映画/アニメ鑑賞などで、ジブリが好き。他にも、ラグビー観戦、ハイキングやスキー、ツーリングと幅広い。

質問1どのように研究しているのですか?

ブリオネ:加速器で加速したバナジウム-51(51V:原子番号23、中性子数28)をキュリウム-248(248Cm:原子番号96、中性子数152)にぶつけることで119番目の元素をつくろうとしています。ここで、加速した高速の原子核をビーム、ぶつけられるほうをターゲットと呼びます。バナジウム-51とキュリウム-248を選択したのは、「大強度のビームとターゲットの入手のしやすさ」と「119番目の元素ができる可能性」のバランスがよかったからです。

新元素合成・検出のための装置

新元素合成・検出のための装置。右上写真の加速器でバナジウムを加速する。左上写真の右側から加速されたバナジウムが真空の管を通りキュリウムに衝突する(写真中央の透明な窓がついている箱の中)。その衝突の際、新たに生成した原子核は電磁石(写真左の緑色)を使って曲げられ、狙いの原子核のみ集められて検出器(下写真)に送られる。バナジウム-51とキュリウム-248が狙い通りに核融合すると119番目の元素ができる。

できた元素はすごく不安定で、すぐにα線(陽子数2、中性子数2のヘリウムの原子核)を出して次々に崩壊します。崩壊時に出てくるエネルギーや崩壊にかかる時間は元素ごとに固有なので、それらを計測すればどの元素がつくられたかを特定できます。新元素ができる頻度は4~6ヵ月に1回あるかないかだと予想しています。

質問2実験では、どのような工夫をされているのですか?

ブリオネ:不安定な元素をつくるには高いエネルギーが必要で、ビームのスピードが十分速い必要があります。しかし、あまりに速いとターゲットにぶつかったときにバラバラになってしまい、原子番号の大きな元素をつくれません。また、ビームのスピードが遅すぎると正電荷をもつ原子核同士が反発し合って融合しません。エネルギーの大きさを、バランスをとって決める必要があります。
また、ビーム衝突後は目的の元素だけでなく、より軽い元素もたくさんできるので、それらをすべて検出するとたくさんのノイズが入ってしまいます。そのようなノイズをなるべく減らすために質量による「ふるい分け」をして狙いの粒子のみを検出器に送り込みます。検出器は縦横が64×128のマス目に分かれており、マス目ごとに信号を検出できるようになっています。そうすることで求める元素の位置(マス目)を特定でき、正確に崩壊のエネルギーや時間を測ることができます。検出器で得た信号はそのままではデータ解析できないため、信号を変換する装置(写真)が必要となります。この装置は私が責任者となって4年前から開発したものです。原子番号の大きな元素の崩壊を測るために必要なナノ秒(10億分の1秒)単位での観測を可能にしました。

写真左方の金色の部分から検出器で得た信号が送られ、板上についているコンピュータで変換する。

質問3なぜ日本で研究をしようと思ったのですか?

ブリオネ:PhDコース(大学の博士課程)にいたときにフランスと日本での共同研究があり、そのときに来たのが仁科センターでした。そこで共に研究をしたことで興味をもち、博士課程修了後に特別研究員として所属することに決めました。
ここでは長期間の実験をすることができる上、ビームのクオリティがとても高いなど新元素をつくるために欠かせないコンディションが揃っています。このような加速器施設は世界でも一つしかありません。

質問4新元素の発見は何につながるのですか?

ブリオネ:新元素自体はつくってから1 ms(1000分の1秒)ほどしか存在できないので直接産業利用することはおそらくありません。しかし、新元素の発見は物質全体に対する理解を深めることにつながります。というのも、元素は理論的には同位体(同じ元素だが質量の異なるもの)を含めて1万種類ほどあると予測されているにも関わらず、現在その約3分の1である3400種類ほどしか見つかっていません。現在の元素に関する法則はその分のデータのみでつくられています。新元素をつくることでよりたくさんのデータが得られ、身の回りの物質に関して多くのことがわかるようになるはずです。また、放射性元素が崩壊する仕組みがわかれば、原子力発電などの産業利用にもつながると考えられます。

向かって左は、インタビューをサポートしてくださった超重元素研究部部長の羽場宏光さん。

(2023年4月取材)

桜蔭高等学校3年 三嶋真櫻
桜蔭高等学校
3年
三嶋 真櫻

インタビューを終えて

インタビュー中、なぜ工学系ではなく理学系の道に進もうと思ったのか伺ったところ「純粋学問は自分の情熱で動ける」とおっしゃっていました。私は今まで将来の自身の進路についてはっきりと想像ができず悩んでいましたが、今回インタビューしてブリオネさんの研究に対する情熱を感じ、基礎研究をされている方々の姿への解像度が上がったことがうれしかったです。貴重な経験をありがとうございました。

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